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物流担当者のリスクマネジメント

小売業出身の駆け出し診断士madmaxです。

今回は、小売業において物流の責任者をやっていた経験から、物流担当者のリスクマネジメントについて少しお話しできればと思います。

小売業は流通の最末端に位置するため、小売業で物流を管理するということは、サプライチェーンの最上流である製造現場から、ゴールであるお客様の元へお届けするまですべての工程について把握・管理する必要があります。

最もわかりやすく、シンプルな題材として、お中元・お歳暮ギフトの物流管理を例にリスクマネジメントを語ってみます。 

在籍していた小売業では、百貨店ということもあり、お中元・お歳暮における物量が最も多くなります。

お中元は関東では6月15日~7月15日(関西では1カ月ずれの場合も多い)、お歳暮は11月15日~12月15日が会期となります。

物量を詳しく表示はできませんが、1会期あたり5百万個近い商品をお客様の指示通りに包装して、お届けします。

お届けのピークはお中元は6月末~7月2週目、お歳暮は11月末~12月2週目となります。

商品調達元は200社程度、調達SKUは1800程度にのぼります。

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包装センターは大規模拠点を全国に8か所、その他、自社の直営センター、産直メーカーなどを入れると200か所程度になります。

物流管理の対象としては、ざっくりいうと、①商品が円滑に取引先から納品されるか、②倉庫内の在庫は品切れしていないか、③包装工程に遅延はないか、④配送工程に遅延はないか、 ⑤コールセンターはパンクしていないか、⑥お届けできなかった商品についてお客様と結末を確認できているか、とサプライチェーンのほぼ全部となります。

1.リスクを事前に察知する方法

ピーク時にはどの工程に支障が出ても、リカバーが困難になり、連鎖的な遅延につながるため、大きなクレームとなりますので、細心の注意が必要です。


リスクを早期に察知するためには、各工程の重要管理指標(KPI)を毎日追うことが重要になります。当然KPIはリスクを察知できる項目になります。例えば、包装工程の遅延を管理するためのKPIは、1日の作業員数と包装個数(日計と累計)などとなります。

なぜなら、物流センターにおけるギフト商品の包装工程はどうしても人海戦術にならざるを得ませんので、処理すべき数量をこなすことができる人数がいなければパンク要因となりますし、人数がいても生産性が低ければ、予定した数量をこなせずパンクするからです。

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ですから、1日の従業員数は予定通り投入されているか、1人当たりの包装個数は標準値を下回っていないか、包装処理残数が1日の処理可能数の2倍以上になっていないか、といった点を確認していきます。 

コールセンターなども人海戦術である上、ある程度、応対の専門性がなければ実戦配備できませんので、パンクしてもすぐに人を補充することはできません。こちらも、KPIを日々確認しながら、「離職者が増えていないか、予定にある要員がちゃんと出勤できているか」「受電数は前年に比べてどうか、一人当たりの応答数は計画通り言っているか」などを担当者と確認していきます。

これら、サプライチェーンの各ポイントにおける、KPIが安全な値を示しているかを毎日、進捗会議を開いて確認していきます。

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2.トラブルが起こったら

しかし、どんなに準備しても、KPIを追いかけても、管理先が多いため、トラブルは発生します。

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その要因は様々です。

例えば、倉庫に入った500個の商品の賞味期限印字が間違っていたなどのトラブルがあれば、商品の入れ替えかシールの張替えといった手戻りが発生し、その影響で包装作業遅延が発生します。

また、配送が完了した商品に製造不備があり、数百件の依頼主やお届け先にお詫び・連絡の上、当該商品を回収して、代替品をお届けするといったトラブルもあります。

 いずれにしろ、ピーク時にパンクした場合、新たな作業員を雇ったり、作業場を増やすなどのリカバーはほぼ不可能になり、顧客対応の方法を検討するフェーズに入ります。

具体的には、以下の対応を取ります。

①できるだけ正確なデータや情報を収集する

②入手したデータや情報から被害予想を策定する

③関係各所に連絡し、集めることができる人的・物的リソースを確保する

④①~③に基づいた具体的オペレーションを構築する。

⑤対応策に基づいた簡易マニュアルやスクリプトを作成する

⑥関係各所にオペレーションを発信し合意を得る。

⑦実際に人的・物的リソースを集める

⑧⑤のマニュアルやスクリプトを配布・説明する

⑨オペレーションを実行する

⑩結果がどうなっても責任をとるといった肚をくくる。

重要なのは、すべてお客様のために、社としてどこまで力を結集してエラーをリカバーできるかに注力することであり、そのためには

①現場責任者を叱責しない・焦らせない・完璧な情報を求めない

②関係各所にはタイムリーに情報を発信し助言と合意を得る

③お客様へスピーディに対応するために、上記①~⑤までは2~4時間以内に実行する

 (どんなに良いオペレーションプランでも、発動までに時間がかかれば、お客様のお怒りは大きくなります。)

等です。

 

3.それでもお客様がご立腹されたら

 考え抜いた対応策でも1次対応ではご納得いただけないお客様はいらっしゃいます。

その場合は以下の対応をしていきます。

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①お客様宅にお伺いして、一通りお客様のおっしゃりたいことを傾聴します。

②お客様のご要望にできるだけ沿うような対応を関係各所と連携しながら検討・ご提案します。

③ご納得いただければ、お約束した対応策を実行します。

④実行した結果をお客様へ報告します。

ここで重要なことは、

①嘘をつかない

②ごまかさない

③約束できないことはしない

ということです。嘘はばれますし、ごまかすとお客様はすぐに気づきます。約束できないことを約束してしまうと、実際に後で実行できないことが判明した際にクレームがさらに大きくなって炎上します。

また、お客様対応のプロセスを記録し、それに基づき関係各所と緊密に連携を取り対応策を決めていくことも重要です。

それでもご納得いただけない場合は、法務担当や弁護士と相談し、引き継ぎます。この時に重要なのは、顧客対応の記録ですので、できるだけ正確にわかりやすく記録を作成しておきましょう。

 

4.最後に

 本件はあくまでも小売業(特に百貨店)の対応ですので、参考にならないかもしれませんが、どんな企業でもリスクマネジメントは必要です。

これを機に、リスクマネジメントの本を読んで、いざという時に対応できるようになっていただければ幸いです。